2020年7月10日 公開
マンションやアパートの資料を見ていると、「ALC造」という文字を発見したことがあるかもしれません。このALC造というのは、建物を建築する際の構造のひとつです。住宅というものは、建築構造により大きな違いがありますので、自分が住んでいる住宅がどのような構造でできているかを知っておくことはとても大切なことです。また、住宅を購入するにしても賃貸するにしても、構造がどうなっているかはしっかり確認してから選びたいものです。そこで今回は、ALC造の特徴やメリットとデメリットについて紹介していきます。
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ALCとは何か
ALC(Autoclaved Lightweight aerated Concreate)とは、ヨーロッパを中心に普及した建材です。日本語では「軽量気泡コンクリート」と訳されています。高温で発泡加工することで内部に気泡ができるため、非常に軽いのが一番の特徴です。その重さは、一般的なコンクリートの約1/4といいますから、相当軽いことがわかります。現在は、国外では北極圏から砂漠地帯といったいたるところで、日本国内では東京スカイツリーや東京都庁など高層建築物でも採用されている素材です。
サイディング・モルタルとの比較
それでは、日本の住宅で多く使われているサイディングやモルタルといった外壁材とALCの違いはどのようなものなのでしょうか。簡単にいうと、ALCはサイディングやモルタルよりも耐久性に優れています。後述しますが、ALCは熱や乾燥に強いので、ひび割れや反りが発生しづらいという特徴を持っています。そのため、定期的なメンテナンスを怠らなければ50年ほど持たせることができるともいわれています。
また、サイディングの場合は窯業系・金属系・樹脂系・木質系など複数の種類があり、サイディングとALCでは見た目では大きな違いがわからないかもしれません。というのも、サイディングの上位互換の外壁材といわれているのが、ALCだからです。サイディングは複数の種類がありますので、その種類によって大きく特徴が変わります。温度に弱いものや、火に弱いものなどのデメリットを持つサイディングもありますが、ALCは温度の影響をほとんど受けないため耐火性が高いなど、サイディングにはない多くのメリットを持っています。しかしながら、すべての点でALCが優れているというものではなく、条件によってはALCよりもサイディングを採用すべき住宅もあります。
一方、モルタルはどうでしょうか。ALCは、モルタルよりも耐久性に優れていて、重量も軽いことから工期は短くなります。モルタルはセメント・砂・水を混ぜたもので、左官コテで塗り付けて外壁にしていき、仕上げに塗装をすることが多いのですが、ALCはパネルを設置していくだけですので、工期が短くなるのです。しかし、モルタルにはデザイン性が高く、メンテナンスが楽というメリットがあります。しかし、小さなひび割れが起きやすいので、定期的なメンテナンスは必須です。逆に、ALCはひび割れが起きにくいので、長持ちするという利点があります。
ALCのメリットとデメリットとは?
それでは、ALCのメリット・デメリットをまとめていきます。ALCは、先述の通り軽くて耐久性が高いのですが、それ以外にもメリットがあります。もちろん、デメリットもあるので、両方を把握して最適な外壁材選びに役立てましょう。
ALCのメリット
●耐久性が高い
ALCには木繊維やパルプ材のような有機物が含まれていません。そのため、熱や乾燥に強くなり、ひび割れや反りも起きにくいため耐久性が高くなります。定期的なメンテナンスをすることで50年以上は工事が不要といわれていますので、長い間同じ場所に住むことを想定している人におすすめの外壁材です。
●軽い
ALCには直径0.05~0.1ミクロンという非常に小さな気泡が含まれているので、コンクリートであるにも関わらず圧倒的に軽くなっています。外壁材が軽いということは、施工時の作業が短くなり、地震のときの負担の軽減にもつながります。地震が多い地域においては、ALCは最適な外壁材といえます。
●断熱性が高い
ALCは断熱性が高いことから、夏の暑さ・冬の寒さに関係なく室内の温度を一定に保つことができます。これはALCの内部に気泡を数多く含んでいるためで、この気泡に包まれた空気が熱の伝わりを抑えるという仕組みになっています。ちなみに、ALCの熱伝導率はコンクリートの約1/10といわれていますので、ほかの外壁材と比較すると非常に高い断熱性を持っているといえるでしょう。
●耐火性・防火性が高い
ALCは耐火性・防火性が高いことから、火事の危険性が低くなります。ALCの主原料は無機質の珪石やセメントですので、炎や熱を受けたとしても、非常に燃えにくいのです。しかも有害物質が発生しないので、火事からの安全性が高いだけでなく、健康被害につながるような事態の防止にもなります。
●遮音性が高い
ALCには多数の気泡が含まれているので、音を吸収してくれます。そのため、外の自動車や電車の騒音や、上下階の生活音の防音に役立ちます。また、楽器を演奏する人の部屋にも採用されることが多い外壁材となっています。
●調湿性に優れる
ALCは室内にある空気中の水分量をコントロールし、結露の発生を抑えることができます。しかしながら、外気の水分を吸収してしまうと調湿性が低下してしまうことがあるので、優れた調湿性を維持するためには防水塗装が必要になります。
ALCのデメリット
●水に弱い
ALCの最大の弱点は、水に弱いということです。内部に細かい気泡が含まれていることから吸水性が高いのですが、ALCが水を吸収するということは、ひび割れのリスクが高くなることと同義ですので、壁の強度の維持のためにも防水加工は必須といえます。
●つなぎ目が多い
ALCはパネルをつなぎ合わせて設置していきます。そのため、つなぎ目が多くなるので、そのつなぎ目から雨水が浸入するリスクがあります。ALCは水が天敵ですので、雨水の侵入により外壁の劣化につながります。そのため、コーキングをしっかり行い、つなぎ目を完全にふさぎ雨水の浸入を防ぎます。
●価格が高い
ALCはほかの外壁材と比較するとメリットが多いのですが、そのため価格が高くなってしまいます。ALCは「JIS A 5416」という日本工業規格の認証を取得しているメーカーだけが製造できる特殊な外壁材で、この規格は日本で3社しか認証されていません。ちなみにALCを取り扱っているのは、次の3メーカーです。まず、有名なのは旭化成建材の「へーベル」で、建物の特徴に合わせて商品を提供しています。住友金属鉱山シポレックスの「シポレックス」は幅広い場所で使える商品や軽くて薄い商品を扱っています。クリオン株式会社の「クリオン」は鉄骨造から木造まで対応した防音に優れた商品を販売しています。
ALCの注意点
ここからは、ALCを採用する際の注意点をまとめておきます。
●防水塗装が必須になる
ALCは先述の通り非常に水に弱いので、防水塗装は必ずしなければいけません。ALCの倍部は多孔構造ですので、断熱性や遮熱性は飛躍的に向上しています。しかし、水分が浸透しやすいので防水加工をしなければ劣化してしまいます。また、ALCはサイディングなどと違い、外壁の内側に透湿シートを張らないので、ひび割れやコーキングの劣化が起きると雨漏りにつながりやすくなってしまいます。この劣化を放置してALCが水分を多く含んでしまうと、建物の内部に腐食が進行して耐久性が落ちてしまいます。
●油性塗料は使わない方がよい
油性塗料は塗料自体の透湿性が低いので、ALCが持つ調湿性の高さを無駄にしてしまうことになります。逆に、密閉性が高くなってしまうため、塗膜の内部で結露が発生して内部の腐食の進行を加速させるリスクが高くなります。ALCの調湿効果を生かすためには、塗料自体の透湿性が高い水性塗料を使用することをおすすめします。
●コーキングのメンテナンスが特に重要
ALCは規格が定められている外壁材です。パネル一枚当たり、幅は305mm・605mmとほかの外壁材よりも小さめになっています。そのため、外壁面積が同じでもコーキング部分が長くなるため、水分が浸透するリスクは高くなってしまいます。しかも、コーキング材は外壁部分において最も劣化が早い場所なので、少なくとも10年に一度はメンテナンスを行う必要があります。
ALCは定期的なメンテナンスを行うことで長持ちさせられる素材ですので、気になることがある場合は、すぐに専門業者に連絡して見てもらうようにしましょう。放置すればするほど工事費用も上がりますので、早めの対応をおすすめします。
ALCに見られる主な劣化症状
ALCの劣化として考えられる症状にはいくつかの種類があります。まず、藻やカビが生えてしまうことです。これは塗膜の防水機能の低下により発生するものですが、特に日当たりの悪い場所は藻やカビが発生しやすいので、高圧洗浄で処理してしまいましょう。続いて、チョーキング現象です。
塗料が乾燥し白い粉状になり、そのまま放置しておくと塗膜の剥がれが発生しますので、塗装の目安にしましょう。そして、塗膜の剥がれまで症状が進行してしまうと、塗膜の防水機能が低下していると考えられます。ひび割れが起こるリスクも高いので、すぐに塗装しましょう。さらに、コーキングの亀裂が起こることもあります。これは、コーキングが乾燥して収縮した状態なので、建物内部へ浸水し雨漏りが起こることがあります。最後に、ひび割れや反りが起こってしまった場合は緊急事態です。塗装もしくは張り替えが必要になります。
ALC造の強みを知っておく
実際にALCを採用して建てた住宅をALC造と呼びます。では、ALC造のメリットはどのようなものなのでしょうか。
●地盤や骨組みの負担が少ない
コンクリートは圧縮力に強く気密性も高いことから、マンションの外壁や天井などに大量に採用されています。しかし、大量のコンクリートの重みは相当なもので、地盤や骨組みに大きな負担がかかってしまいます。そのため、その重みで地盤が沈み、骨組みがゆがんでしまうことがあります。しかしながら、外壁や天井にコンクリートよりも軽いALCを使うことで、強度を保ちながら建物の軽量化が実現します。
●ALC内部の気泡が気密性を高める
ALCを使用することで、機能性が高くなります。これは、セメント類が高温・高圧で焼き固められるときにできる多数の気泡によるもので、断熱性・耐火性が高くなります。ALCの内部の気泡が空気層を作るので、外部と室内の熱移動が少なくなります。ALC造の建物は、夏は涼しく冬は暖かく過ごせるのが特徴ですので、日本のどの地域にも適した素材といえます。また、火事にも強いため、隣家との距離が近い地域では重宝するでしょう。さらに、防音性が高いのもALCの特徴です。外部から聞こえる騒音をカットし、内部からの楽器の音などもカットしてくれます。調湿性にも優れているので、室内の湿度を保ち、高温多湿の日本の気候にぴったりです。このように、ALC造の建物には多くのメリットがあります。
ALC造のチェックポイント
しかしながら、ALC造にもデメリットがないわけではありません。特に入居後にこのデメリットが出てきてしまうと、トラブルにつながる可能性があるので、あらかじめチェックしておくことが大切です。
●仕上げの防水塗装によって強度に差が出ることがある
ALCは多くの気泡を含んでいる素材ですので、長時間にわたって水分に触れると劣化につながります。また、冬場は染み込んだ水が凍り内部で膨張してひび割れにつながることがあります。そのため、外壁材として使用する際には水分の侵入を防ぐための防水塗装が必須です。しかしながら、防水塗装を行っても外壁材は経年劣化を起こします。というのも、外壁は常に紫外線や雨風にさらされていますので、どうしても経年劣化は避けられません。つまり、防水塗装の仕上がり具合によって経年劣化に差ができ、そのまま強度の差につながってしまいます。ALC造の建物に住む場合は、施工会社がALCの採用した工事の実績が豊富かをチェックすべきでしょう。
●コーキングの劣化は早めに対応する
どんな外壁材の接合部にも、シリコン材などをペースト状にしたコーキング材が使用されていますが、ALC造の場合はこのコーキングの量が多くなるため、劣化してしまうと雨漏りのリスクが高くなります。コーキングの主な目的は、防水性や気密性を維持することですので、水に弱いALCにとっては切っても切れないものです。しかし、コーキングは紫外線や雨風などにより経年劣化を起こしやすく、ALCそのものよりも劣化スピードが早いため、早めの対応が必要になります。
このように、ALC造の建物に住んだ際には、メリットとデメリットを把握し、不具合にはすぐに対応するようにしましょう。
記事監修
【一級建築士】登立 健一 一級建築士。全国建物診断サービスのwebサイト監修の他、グループ会社の株式会社ゼンシンダンの記事も監修。 |